「う…ううん…」


「っ…俺は一体…」


「何故こんな所に…」


「確か…あの地下道を抜けて…」


「…霧に囲まれたところまでは覚えてるんですが……」





僕達は、さんを捜して此処まで来た。
けれどこの塔に入って思い出したくも無いものが見えて、その後からの意識が無くなって。



「そうだっ!!!さんを捜さないと………え…?」



目が覚めた僕達の前には、傷付き倒れた人達。








その中には、さんの姿もあって。



















「…お前達、正気に戻ったのか!?」


水の民の衣装を纏った人が僕達を訝しげに見る。

正気に戻った、とはどういう意味だ?




「ワルターどういう意味ですか?我々は何を…」


「……自分達の手元を見てみろ」







その言葉に皆が視線を下げて、絶句した。









何故、僕は苦無を握っている?

僕だけじゃない、アッシュさんやガイさんの剣には血までついている。
リフィルさんやジェイドさんだって意識が無かった筈なのに何故武器を握っている?




そして、目の前には倒れているさん達。



この光景が導き出す答えはひとつしかない。








「私達が……やった…の?」

「俺が……こいつ等を斬ったのか…?」





誰も答えない。
それは肯定の証。



全身の血の気が引いた音が聞こえた。



手から苦無が滑り落ちる。







僕達が………さん達を……傷つけた…?














「今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!!」

「そうだ!俺達の敵はあっちだ!!」









セネルさんとスパーダさんの声に意識が引き上げられる。
傷だらけの彼等は揃ってある女性に武器を向けていた。












「そのまま闇に委ねていれば真実を知らずにいれたものを…。人は残酷だな…」

「黙れ!!全部貴様が仕組んだ事だろう!!!僕らがこの程度で揺らぐと思っているのか!」




リオンさんの特攻を合図にスパーダさんやセネルさんも向っていく。
僕の情報が正しければホーリークレスト軍のリオン・マグナスと言う人物はあんな力押しな行動を取るような人じゃない。
前線に突っ込んでいくような戦術は取らない、冷静な兵だった筈。






ああ、そうか。



余裕が無いんだ。








「おいっ!解毒を寄越せ!」

「は…?なんですか?」


ワルターさんが僕に突っかかってくる。



「貴様の武器に塗ってある毒の解毒薬だ!!」



っ!!しっかりして!!」
「どうして…?!リカバーが効かないの…っ!?」



さんだけが、まだ目を覚まさない。


僕の…武器についていた血は…まさか…







さん!!!」




僕は慌てて懐から丸薬を取り出す。
忍の武器に塗られた毒は特殊な調合で作られていて、それ故解毒も特殊な調合で作った薬でしか出来ない。
リカバーやパナシーアボトルが効かないと言うことは…この状態は僕の…っ!




薬は飲ませたが、毒が回って時間が経っているのかさんの意識が戻らない。

僕が…っ僕が…さんを…。





「…だいじょうぶ…」



僕の手が誰かに握られた。

その手は目の前に横たわるその人のもので。

かけられた言葉もその人のものだった。



!」

「多分無意識の言葉ね…」


まだ瞳は閉じられたまま、なのに僕なんかを気遣って。



貴方を傷つけたのは僕なんですよ?どうしてそんなに人のことばかり気にするんですか。








「……さんを、お願いします」

「…ええ」






僕が落ち込んでいる場合じゃない。
















元凶を断たないと。
















「…許さない」

「仔を傷つけたのは我ではない。お前ではないか」

「…そうだ、だから僕が許せないのは僕自身…。
お前なんかに操られてしまった僕だ!!」




頭が真っ白だ。



忍たる者いつも冷静であれ、と頭領にいつも言われているのに。












「駄目よジェイ!!!」

「正面から向っては危険です!!!」







僕を止める声も聞こえたけれど、体はもう止まらない。
暗器を持てるだけ握り締めた両手を思い切り振る。










「…っ…!!!」


「愚かだと言うのが、まだ理解出来ぬか?」






全力を込めたのに、全て苦無は叩き落された。
それでもと、接近戦に持ち込もうと向けた刃ですらあっさりと受け止められる。
こんな細腕なのに、ビクともしないなんて。







「ブラッディハウリング」


「…っああああぁ!」





間近で受けた魔術に体が動かない。
こんな所で倒れている場合じゃないのに。



僕が、この手で倒さなければさんに顔向け出来ない………





「……っ!!」





誰かが息を呑む音がした。
僕は、様子を伺おうと首だけでも動かす。










「ジェイ…」








さんが 立っていた








表情は虚ろだけど、ぎこちなく僕に微笑んだ。
リアラさんやコレットさんが止めるのも聞かず、剣を構えている。






「わからぬ。何故、そこまでこの世界に関与したがるのだ」



「……オレにとっちゃ、お前らの方が…理解出来…ないね。

 “守る者”として…生まれたくせに…。

 オレは…やりたいよーに…やるだけ…。今は…




  
オレの大切な仲間を傷つけた奴が許せねーから!!!









…“仲間”……。





僕に傷つけられたって言うのに、まだそんなこと言うんですか?!





まだ、僕のことを“仲間”って呼ぶんですか!?






まだ………呼んでくれるんですか……?






















「リアラ、リフィル!!皆の回復を頼む!!」








ボロボロなのに








「ええ!!」
「任せてっ!!」








「ワルター、ジェイド、アッシュ!!術で援護お願い!」








皆に力を分け与えてくれる






「ああ!」
「解りました!」
「おう!」







「スパーダ、リオン!!!後衛を守って!!!」








闇を照らしてくれる







「おうよっ!」
「解った!」







「ガイ、セネル!!!オレと一緒に前へ!!!」







光のようなその人








「よしっ!」
「了解だ!」












「ジェイっ!!!!」










――――――伝承に記された“ディセンダー”の姿そのものだった。